
こちら北海道・札幌ではただいま桜が満開です。
お外での活動が気持ちいいシーズンが始まりました!
これからは愛犬と自然の中を散歩したり、キャンプや登山などアウトドアを楽しむ方も多いのではないでしょうか。
でも、そんな時に注意したい寄生虫の病気があります。
それが「エキノコックス症」です。
北海道以外では名前を聞いたことがない方もいるかもしれませんが、この病気は犬だけでなく、人にも感染する人獣共通感染症、(ズーノーシス)。
発見が遅れると重篤な症状を引き起こすこともあるため、予防が非常に大切です。
エキノコックス症の基礎知識から、日本国内の現状、犬や人が感染するとどうなるのか、そして飼い主ができる予防法まで、わかりやすく解説します。

エキノコックスってどんな寄生虫?

エキノコックス(Echinococcus multilocularis)は、サナダムシの一種で、主にキツネや犬の腸に寄生する成虫と、ネズミなどの内臓に寄生する幼虫(多包虫)という2つの姿で生きています。
【エキノコックスのライフサイクル】
- 成虫がキツネや犬の腸内に寄生
- 糞便中に虫卵が排出される
- 虫卵をネズミなどが口にすると体内で幼虫に変化
- ネズミを捕食した犬やキツネがまた感染し、腸内で成虫へと育つ
このように、キツネ・犬(終宿主)→ネズミ(中間宿主)→また犬やキツネへというサイクルを繰り返しています。
そしてこの虫卵、人の体内に入っても感染することがあるのです。
犬にはどうやって感染する?

犬が感染する主な原因は次のとおりです。
- 野ネズミなどを捕まえて食べてしまう
特に放し飼いされている犬や、猟犬、野山をよく走り回る犬はリスクが高いです。 - 環境中の虫卵に接触する
虫卵は非常に小さく、乾燥や寒さにも強いため、草や土、水、被毛などに付着して口に入ってしまうケースもあります。
症状が出にくいことが落とし穴!
犬に感染しても、ほとんどの場合は無症状。
腸内に小さなサナダムシがいるだけで、体調に変化は見られません。
そのため、飼い主が気づかず、虫卵が周囲にまき散らされる恐れがあります。
人にも感染する?症状は?
エキノコックスの虫卵が人の口から体内に入ると、多包虫(幼虫)として肝臓などに寄生し、腫瘍のような病変を作ります。
この病気は「多包性包虫症(たほうせいほうちゅうしょう)」と呼ばれます。
【人での症状と進行】
- 潜伏期間は5~15年と非常に長く、初期は無症状
- 肝臓に腫瘍様の病巣を形成
- 進行すると肝機能障害や黄疸、腹痛などが出現
- 他の臓器(肺、脳など)にも転移する場合がある
- 手術や抗寄生虫薬による長期治療が必要
- 放置すると命に関わることも
特に抵抗力の弱い人や高齢者では重症化のリスクが高く、早期発見が難しい分、予防が極めて重要です。

日本でのエキノコックスの現状は?

日本では、北海道を中心に感染が広がっています。
【北海道の現状】
- キツネを中心に広範囲で感染が確認されている
- 野ネズミの感染率は高い地域で40%以上
- 飼い犬の感染例も複数報告
- 1970年代以降、人での患者も確認されており、今なお年間数人の新規患者が報告されています
【本州への拡大リスク】
- 北海道からの観光やペット連れ移動により、本州に虫卵が持ち込まれる可能性が懸念されています
- 青森、長野、富山など一部の地域では、野生動物から虫卵の検出事例もあり、注意が必要です
つまり、「北海道だけの問題」とは言いきれない状況になっているのです。
犬や人への感染事例
【参考リンク】飼い犬のエキノコックス感染について(北海道保健福祉部)
以下に、犬や人間におけるエキノコックス感染の実例をいくつか調べてみました。
これらの事例は、感染リスクが北海道に限らず、本州でも存在することを示しています。
🐶 犬の感染事例
1. 札幌市内の室内飼育犬の感染例
【参考リンク】<検査の現場から> 札幌市内の室内飼育犬におけるエキノコックス感染例について(北海道大学One Healthリサーチセンターのサイト)
北海道大学動物医療センターで診察を受けた札幌市内の室内飼育犬が、1ヵ月以上にわたり間欠的な嘔吐、下痢、食欲低下を示しました。糞便検査で多数のエキノコックス虫卵が確認され、遺伝子同定によりエキノコックス卵と判明しました。駆虫処置後、消化器症状は改善しました。一般的に犬は無症状で経過することが多いとされていますが、今回のように慢性的な消化器症状を伴う可能性もあるため、汚染地域の飼育犬における下痢等の消化器症状には注意が必要です。
https://ohrc.vetmed.hokudai.ac.jp/news/217/より引用
2. 愛知県知多半島の野犬における感染例
愛知県では、2014年から2021年にかけて、阿久比町、南知多町、知多市などで捕獲された野犬からエキノコックス症の陽性例が報告されています。これらの犬は動物保護管理センターが捕獲した野犬で、殺処分または駆虫薬投与が行われ、人への感染防止対策が図られました。
(愛知県, ホーム|厚生労働省)
👤 人への感染事例
感染後29年の経過が推定された肝多包性エキノコックス症の例
ある患者さんは、感染後29年が経過したと推定される肝多包性エキノコックス症を発症しました。
腹痛と下痢のために受診.腹部造影CT検査で肝内に多発する嚢胞性病変が認められ、
エキノコックス抗体検査が陽性で肝多包性エキノコックス症の診断となりました。
この患者さんは関東在住であるが2 歳時に北海道へ旅行しキツネとの接触歴があったそうです。
それ以外は犬の飼育歴などの発病要因がなく、そのときに感染した可能性が高いと判断されました。
国立感染症研究所の報告によると、2007年から2016年までの10年間で多包性エキノコックス症は225例の新規発生患者があり、そのうち205例が北海道での発生でした。北海道以外での発生は10年間で11例と少なく、関東地方では6例の報告がありました。 (J-STAGE)
これらの事例から、エキノコックス症は北海道だけでなく、本州でも感染リスクが存在することがわかります。
それにしても、潜伏期間が29年とは!
幼いときに接触したキツネからエキノコックスをうつされていたとは、患者さんも思いもしなかったでしょうね。
なお人間向けに「エキノコックス健診」を行っている自治体もあります。
札幌市では無料で受けることができます。
お住まいの地域で行われているか調べてみても良いかもしれません。
飼い主ができる5つの予防対策

大切なのは、愛犬と人の両方を守るための「予防意識」です。
以下のような対策を日常に取り入れましょう。
✅ 1. 定期的な駆虫(寄生虫予防薬の投与)
- 1〜3ヶ月に1回の頻度で駆虫を
- 有効成分:プラジカンテル配合の薬(動物病院で処方)
- 北海道在住・旅行する犬は特に重要
✅ 2. 野山や山林での放し飼いを避ける
- 野ネズミを追いかけてしまうことが最大の感染リスク
- キャンプ場や河川敷などでは必ずリードを装着
- 野生動物との安易な接触はNG
✅ 3. 散歩後の体や足の清拭
- 被毛や足裏に虫卵が付着する可能性あり
- 帰宅後は足・お尻周りを丁寧に拭き、できればシャンプーも
✅ 4. 便の適切な処理と手洗い
- 他の犬や人への感染を防ぐため、糞はビニール袋で回収し密封
- 処理後はしっかり手を洗う
✅ 5. 北海道や山間部では特に注意を
- 旅行や帰省で北海道へ行く場合は、帰宅後に駆虫をする習慣を
- 他県への感染拡大を防ぐマナーにもつながります
駆虫薬について

エキノコックスの駆除に使われる主なお薬は「プラジカンテル(Praziquantel)」という成分が含まれたものです。これは、サナダムシ類(条虫)に特に効果を発揮します。
🐕🦺 国内でよく使われる製品例:
- ドロンタール®(プラジカンテル+ピランテル)
- プロフェンダー®スポット(背中に垂らすタイプ)
- ミルベマイシンAなどの複合タイプも
獣医師の診断・処方が必要なお薬なので、市販はされていません。必ず動物病院で相談しましょう。
駆虫薬は、感染してから使うだけでなく、「うつらないようにする予防薬」としての役割も大きいです。
「うちの子は元気だから大丈夫」と思っていても、無症状で感染しているケースもあります。
年に数回の健康診断と一緒に、駆虫のことも獣医さんと相談してみてくださいね。
まとめ:正しく知って、愛犬と人の命を守ろう
エキノコックス症は、犬は症状が出にくく、人では何年もかけて重症化する可能性がある怖い病気です。
しかし、定期的な駆虫や環境への配慮など、日常の心がけで予防することができます。
愛犬の健康を守ることは、家族の健康を守ることにもつながります。
感染症に対する意識をアップデートしましょう!
「ちょっとぐらい大丈夫」と思わず、野山に行く子には必ず定期的に駆虫を行ってあげましょうね!
