
ワンちゃんやネコちゃんと暮らすうえで、避けて通れない話題のひとつが「ワクチン接種」です。
動物病院に行けば「そろそろワクチンの時期ですね」と言われ、愛犬・愛猫の健康を守るために当然のように受けさせている方も多いのではないでしょうか。
しかし、近年ではSNSやネット記事などを通じて、ワクチン接種に対するさまざまな意見や情報が飛び交っています。
私の身の回りでも「ワクチンは必要不可欠」という声がある一方で、「副作用が心配」「本当に毎年打つ必要があるの?」とおっしゃる方も少なくありません。
本記事では、ペットのワクチン接種についてその種類や効果、副作用のリスク、さらには賛否両論に至るまで幅広く取り上げ、愛犬・愛猫の健康を守るために飼い主がどう考え、どう選択すべきかを探っていきます。

犬と猫のワクチンの種類とは?

犬や猫に接種されるワクチンには、大きく分けて「コアワクチン」と「ノンコアワクチン(任意接種ワクチン)」の2種類があります。
①コアワクチン
コアワクチンは、どの犬・猫にも最低限必要とされる「命を守るための基本ワクチン」と位置付けられており、国内外の獣医学会でも強く推奨されています。
● 犬のコアワクチン
犬にとって命に関わる感染症を予防するために、すべての犬に接種が推奨されているのが「コアワクチン」です。
通常は「3種混合ワクチン」として子犬のうちに数回接種され、成犬には年に1回の接種が推奨されています。
▸ 犬ジステンパーウイルス(CDV)
ジステンパーは非常に感染力が高く、致死率も高いウイルス感染症です。
呼吸器、消化器、さらには神経系にも症状を引き起こし、発熱、鼻水、咳、下痢、けいれん、麻痺などが見られます。
一度発症すると回復しても後遺症が残ることが多く、予防が極めて重要です。
▸ 犬パルボウイルス(CPV)
パルボウイルス感染症は、主に子犬に重篤な下痢・嘔吐・脱水症状を引き起こし、急速に衰弱して死亡することもある恐ろしい病気です。
ウイルスは環境中で非常に長期間生存するため、一度でも感染源に触れると高い確率で感染します。
予防接種により確実に防ぐことができます。
▸ 犬アデノウイルス(CAV)
アデノウイルスには1型(犬伝染性肝炎)と2型(犬感染性喉頭気管炎=ケンネルコフの一因)があり、いずれも呼吸器や肝臓に影響を与えます。
1型は肝臓に深刻なダメージを与え、2型は咳やくしゃみなど呼吸器症状を引き起こします。ワクチンでは通常、両方の型に交差免疫が得られるよう設計されています。
● 猫のコアワクチン
猫にとって命に関わる3つのウイルス疾患を防ぐために、すべての猫に接種が推奨されているのが「コアワクチン」です。
これも「3種混合ワクチン」として子猫のうちに数回接種され、その後は1~3年に1度接種されることが一般的です。
▸ 猫ウイルス性鼻気管炎(FHV-1)
「猫かぜ」の原因ウイルスの一種で、くしゃみ、鼻水、目ヤニ、発熱などの症状を引き起こします。
子猫や高齢猫、免疫が弱い猫では重症化しやすく、慢性化するケースも多いです。
感染後もウイルスが体内に潜伏し、ストレスなどで再発することがあります。
▸ 猫カリシウイルス(FCV)
もうひとつの「猫かぜ」の主原因で、口内炎、舌潰瘍、関節炎などを伴うこともあります。
カリシウイルスは多様な変異株が存在し、ワクチンによる完全な予防は難しいものの、重症化を防ぐ効果があります。多頭飼育環境では特に注意が必要です。
▸ 猫汎白血球減少症(FPV)
猫パルボウイルスとも呼ばれ、特に子猫では致死率が非常に高い疾患です。激しい嘔吐、下痢、白血球の激減による免疫力の低下が特徴で、数日で急死することもあります。ウイルスは環境中で数ヶ月〜1年以上も生存可能なため、非常に感染力が強い病気です。
②ノンコアワクチン(任意接種)
●犬のノンコアワクチン
- 犬パラインフルエンザウイルス
- レプトスピラ症
- 犬コロナウイルス
- 狂犬病(※日本では法律により年1回の接種が義務付けられています)
地域や生活環境(ドッグランやペットホテルの利用、野外活動の多さなど)に応じて、必要性が判断されます。
● 猫のノンコアワクチン
- 猫白血病ウイルス(FeLV)
- 猫クラミジア感染症
- 猫エイズ(FIV)ワクチン(日本では認可済みだが有効性に議論あり)
外に出る猫、他の猫との接触がある場合には接種を検討することがあります。
ワクチンの効果と目的

ワクチンの最大の目的は「感染症を予防すること」ですが、その中には2つの目的があります。
● 発症予防と重症化防止
ワクチンは体内に病原体の情報を与え、免疫をつけることで感染症を未然に防いだり、感染しても症状を軽く抑える効果があります。
特に若齢期や高齢期、基礎疾患がある子は重症化のリスクが高く、ワクチンによる防御は命を守る手段となります。
● 集団免疫の形成
動物同士の感染を防ぐことで、社会全体の感染症リスクを下げる効果もあります。
とくに犬の狂犬病ワクチンは、万が一ウイルスが海外から侵入した場合に拡大を防ぐ「防波堤」の役割を果たします。
ワクチン接種に対する賛成意見

ワクチンを積極的に接種する派の意見としては、以下のような点が挙げられます。
● 命を守る手段としての有効性
「ジステンパーやパルボなど、子犬期に感染すると致命的な病気から守る手段はワクチンしかない」と考える獣医師さんや飼い主さんは多くいます。
特に多頭飼いや外出が多い子ではリスクが高いため、接種は「命綱」となることもあります。
● ペットホテルや施設での受け入れ条件
ほとんどのペットホテルやトリミングサロン、ドッグランでは、ワクチン接種証明書の提示が求められます。
ワクチンを打っていないと利用できないという現実的な問題もあります。
● 公衆衛生への配慮
狂犬病予防は日本国内での発生を防ぎ続けている国家的な衛生対策のひとつです。
万が一のパンデミックに備えるという意味でも、予防接種の意義は大きいとされています。

ワクチン接種に対する反対・慎重派の意見

一方で、すべての飼い主がワクチン接種を無条件で受け入れているわけではありません。
人間の場合でもコロナウイルスワクチンなど、反対の意見をお持ちの方も多いです。
ペットのワクチン反対・慎重派の主張には次のようなものがあります。
● 副作用のリスク
ワクチン接種後に見られる主な副作用には、次のようなものがあります。
- 一過性の発熱や元気消失
- 嘔吐や下痢
- アナフィラキシーショック(まれだが命に関わる)
- 猫では「ワクチン関連性肉腫」と呼ばれる注射部位の悪性腫瘍の報告も
特に体の小さな子犬・子猫や、アレルギー体質の個体では注意が必要です。
● 不必要な過剰接種への疑問
「ワクチンを本当に毎年打つ必要があるのか?」という疑問は近年増えています。
たしかに一部のワクチンは数年間有効であることが研究で示されており、欧米では抗体価検査(免疫が残っているかを調べる検査)を実施して、必要な場合のみ接種するという考え方も広がっています。
● 室内飼育での感染リスクの低さ
「完全室内飼育で、他の動物と接触しない場合には感染リスクがほとんどない」という意見もあり、個々の生活環境に応じた接種の必要性を見直すべきだという声もあります。
飼い主としてどう向き合うべきか
賛成派も慎重派も、それぞれに根拠があり、どちらか一方が「正しい」という単純な話ではありません。大切なのは「自分の犬や猫にとって何が最善か」を見極める姿勢です。
● 獣医師との相談が不可欠
ワクチンの種類、接種のタイミング、体調との兼ね合いなどは、かかりつけの獣医師としっかり相談して決めましょう。
ワクチンプログラムは個体ごとにカスタマイズすべきものであり、一律に「全員が毎年打つべき」ではないという考え方も浸透してきています。
● 抗体価検査という選択肢も
毎年の接種が心配な方には、ワクチン抗体価検査という方法もあります。
これにより、十分な免疫が残っているかを確認してから接種を判断することが可能です。
費用はかかりますが、ペットの体への負担を最小限にする手段として注目されています。
ワクチン抗体価検査とは?

近年、ワクチン接種に対する関心の高まりとともに注目されているのが、「ワクチン抗体価検査」です。この検査は、ペットの体内にすでにどれだけの免疫が残っているかを確認する方法で「本当に追加接種が必要かどうか」を見極める手段になります。
● 抗体価検査とは?
抗体価検査とは、血液検査によって、過去に接種したワクチンによって作られた特定ウイルスに対する抗体の量(=抗体価)を測定するものです。
十分な抗体価が確認されれば、その時点で追加のワクチン接種を見送ることも可能になります。
対象となるのは、主に以下のコアワクチンの病原体です:
- 犬:ジステンパー、パルボウイルス、アデノウイルス
- 猫:カリシウイルス、ウイルス性鼻気管炎(FHV)、汎白血球減少症(FPV)
● どんなときに検討する?
- ワクチン副作用が心配なとき
- 高齢で体力の低下がある場合
- 毎年の接種に疑問を感じているとき
- 室内飼いで外部との接触が少ない場合
特にアレルギー体質や、以前ワクチン接種後に体調不良を起こした経験があるペットでは「無理に打つより、検査で判断する」という選択が、より安全かつ合理的とされています。
● 検査のタイミングと費用
抗体価検査は、最後のワクチン接種から1年後以降に行うのが一般的です。
その後は1〜3年ごとに抗体価を測定し、必要なときだけブースター(追加接種)を検討します。
費用は動物病院によって異なりますが、1回あたり5,000〜15,000円程度が相場といわれています。
高く感じるかもしれませんが、不要なワクチン接種によるリスク回避や、個体に合わせた健康管理という観点から見ると、価値ある検査と言えるでしょう。
● 検査にも限界がある
ただし、抗体価検査にも以下のような注意点はあります。
- 測定対象がコアワクチンに限られる(狂犬病、レプトスピラなどは不可)
- 抗体がなくても「細胞性免疫」が残っているケースもある(=検査では免疫力が低く見えても実際は守られている可能性がある)
- 費用と時間がかかる
つまり、「抗体がない=すぐに危険」というわけではないという点には注意が必要です。
あくまでも「ワクチン接種の判断材料のひとつ」として活用するのがよいでしょう。
ワクチンは「義務」ではなく「選択」の時代
ワクチンは、ペットの命を守る強力なツールであると同時に、副作用というリスクも内包しています。そして何より大切なのは「飼い主さんの理解と選択」です。
「皆が打っているから」「毎年打つのが当たり前だから」という理由ではなく、自分のペットの健康状態、年齢、生活環境を踏まえたうえで、ワクチンの必要性を見極めた上で決定したいものです。
愛犬・愛猫が、健康で穏やかな毎日を過ごせるよう、正しい情報をもとに、私たちができる最善の選択をしていきましょうね。
