犬をはじめとするペットのリハビリ分野で近年注目されている「水中トレッドミル(UWTM/アンダーウオータートレッドミル)」。
水の中を歩かせるだけで本当に効果があるの?と疑問に思う飼い主さんも多いかもしれません。
しかし実際には、水中トレッドミルは 獣医リハビリテーション分野で最もエビデンス(医学的根拠)が豊富な治療手段のひとつであり、効果が科学的に証明されている運動療法 です。
欧米では病院・リハビリセンターで幅広く導入され、日本でも導入が増えつつあります。
一方で、どんなに効果が高い治療法でも、すべての動物病院に設置されているわけではありません。
その理由や、水中トレッドミルが利用できない場合の代替療法についても、あわせてまとめました。
この記事を読むと、一度水中トレッドミルを体験してみたくなるかもしれません。

🐾 水中トレッドミル(UWTM)とは?

水中トレッドミル(UWTM)は、透明のタンクに水を張り、その中でワンちゃんが歩くリハビリ機器です。
“水の浮力・水の抵抗・温水効果”を利用して、陸上では難しい 「関節にやさしいのに効率よく筋力をつける」 運動ができます。
前十字靭帯断裂の術後や椎間板ヘルニア、関節炎、シニア犬の歩行改善など、幅広い症例に使用されています。
🐾 水中トレッドミルの医学的な効果

研究で裏付けられた水中トレッドミルの3つのメリットをご紹介します。
( )は論文の著者と発表年の情報です。章末にそれぞれの論文をまとめています。
✦ ① 浮力で体重負荷が最大75%軽減される
水の中では体が軽くなり、痛みのある関節にかかる負担を大幅に減らせます。
- 肩までの水深 → 62〜75%軽減
- 膝の高さ → 22〜30%軽減
前十字靭帯断裂やパテラ(膝蓋骨脱臼)、股関節形成不全などの整形疾患には特に効果的です。
(*参考:Levine et al., 2010 / Millis & Levine: Canine Rehabilitation and Physical Therapy)
✦ ② 水の抵抗で“安全に筋力アップ”
水の粘性は空気の約700倍。
そのため、前後・左右の動きで自然に負荷がかかり、
- 大腿四頭筋が有意に増加
- 歩行のストライド(歩幅)が改善
といった効果が研究で示されています。(Millis et al., 2004)
筋力はつけたいけれど、痛みがあって陸上運動が難しい子に最適です。
✦ ③ 温水効果で血行改善・筋緊張の緩和
温かい水が循環することで、
- 血流増加
- 筋肉のこわばり緩和
- 関節可動域(ROM)の改善
- 痛みの軽減
など、多くのメリットがあります。
(Millis & Levine: Canine Rehabilitation and Physical Therapy より)
シニア犬のケアやヘルニア後の緊張緩和にもよく使われます。
【📖 参考文献|1.水中トレッドミルの医学的効果】
◆ 浮力による体重負荷の軽減
- Levine D, et al. Effects of water depth on ground reaction forces in dogs. AJVR, 2010.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20166313/
◆ 水の抵抗による筋力トレーニング効果
- Millis DL & Levine D. Canine Rehabilitation and Physical Therapy. Elsevier.
https://www.elsevier.com/books/canine-rehabilitation-and-physical-therapy/millis/978-1-4160-5895-4
◆ 温水の理学療法効果(血流改善・ROM向上)
- 同上:Millis & Levine Canine Rehabilitation and Physical Therapy.
◆ 獣医リハビリテーション分野の総合教科書
- Millis DL & Levine D. Canine Rehabilitation and Physical Therapy.
https://www.elsevier.com/books/canine-rehabilitation-and-physical-therapy/millis/978-1-4160-5895-4
🐾 どんな症例に向いている?

✔ 前十字靭帯断裂(TPLO術後など)
歩行改善・筋力回復・リハビリ期間短縮が報告されています。(Marsolais et al., 2002)
✔ 椎間板ヘルニア(IVDD)
麻痺後の再歩行の補助として有効。(Jeffery et al., 2015)
✔ パテラ(膝蓋骨脱臼)
大腿四頭筋を効率よく鍛えられ、再発予防に根拠あり。
✔ 股関節形成不全・変形性関節症(OA)
温水歩行で疼痛スコア低下・可動域改善。(Roush et al., 2013)
✔ シニア犬
心肺機能・筋力維持・運動耐性の改善が報告。(Happell et al., 2019)
【📖 参考文献|2.どんな症例に向いている?】
◆ 前十字靭帯断裂(TPLO術後)
- Marsolais GS, et al. Effects of postoperative rehabilitation on limb function after TPLO in dogs. AJVR, 2002.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12118679/
◆ 椎間板ヘルニア(IVDD)
- Jeffery ND, et al. Interventions for dogs with intervertebral disc disease: a systematic review. JVIM, 2015.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25534389/
◆ 股関節形成不全・変形性関節症(OA)
- Roush JK, et al. Evaluation of underwater treadmill exercise for dogs with osteoarthritis. AJVR, 2013.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23718740/
◆ シニア犬の体力維持
- Happell J, et al. Benefits of hydrotherapy in aging or mobility-impaired dogs. 2019.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6927068/
🐾 歩行の質も改善する

水中では、
- 歩幅が広がる
- 背中が伸びる
- 脚をしっかり前へ出せる
など、陸上では難しい良い歩行パターンが自然と身につきます。
歩行分析でも、速度・関節角度・荷重バランスの改善が確認されています。(Barnicoat et al., 2013)
【📖 参考文献|3.歩行の質も改善する】
◆ 水中で歩くと歩幅・荷重・姿勢がどう変わるのか
- Barnicoat F, et al. Ground reaction forces and gait parameters in dogs during underwater treadmill exercise.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23815183/
🐾 なぜ導入が進まないの?
水中トレッドミル(UWTM)は効果が科学的に証明されているにもかかわらず、
すべての動物病院に導入されているわけではありません。
その理由は“医学的な問題”ではなく、ほぼ運用面の問題 にあります。
■ ① 初期導入コストが高い
本体価格に加え、設置工事や床補強などを含めると数百万円規模。
■ ② スペースが必要
大型犬に対応するサイズは広い部屋が必要で、小規模病院では難しい。
■ ③ 維持管理が大変
水質管理・衛生管理・機械メンテナンスが必要。
温水を使う場合はさらに手間が増えます。
■ ④ スタッフ教育が必要
水深・速度・傾斜の設定を誤ると効果が出ないどころか逆効果になるため、
専門スタッフの育成が欠かせません。
■ ⑤ 症例ごとの“評価”が難しい
犬種や疾患により最適な設定が違うため、経験値が必要です。
これらは医学的な限界ではなく、あくまで 運用体制の問題 であるため、
施設により導入状況が異なっています。

🐾 水中トレッドミルの【代替&補完療法】

リハビリに水中トレッドミル(UWTM)を使うことができない場合、ほかのリハビリ手法をうまく組み合わせることで高い効果を得ることができます。
以下は、実際に動物リハビリ施設でもよく使われる代替&補完療法です。
■ 自由遊泳療法(スイミング)
関節負荷ゼロで全身運動ができ、心肺機能の向上にも効果的。
■ レーザー療法(光線療法)
炎症や痛みを軽減し、組織修復を促進。手術後の疼痛管理に相性が良い。
■ 電気刺激療法(TENS/NMES)
- TENS → 痛みの緩和
- NMES → 筋萎縮の予防・筋力回復
神経疾患で特に活躍。
■ マッサージ(徒手療法)
筋肉の緊張を緩め、血行を改善し、痛みも軽減する基本のケア。
■ 陸上トレッドミル
水中トレッドミルより負担は高いが、
歩行訓練としての効果は十分に期待でき導入しやすい。
■ バランスディスク・バランスボール
体幹強化・固有受容覚の改善に特に有効。
水中運動が難しい子にも取り入れられる。
■ 近赤外線治療(NIR)
深部組織へのアプローチが可能で、炎症・痛みの軽減に役立つ。
🐾水中トレッドミル、どこで受ける?
水中トレッドミルを使ったリハビリを受ける場合、スタッフの知識・技術・ペットへの配慮が違うと、効果は大きく変わります。
- その子の性格
- その日の体調
- 歩き方のクセ
- 痛みの有無
を丁寧に見極めながら行う施設があれば安心して施術を受けることができます。
そんな“ペットの心と身体に寄り添うケア”を実現している施設として
10月にヘルシーアニマルズは「ハウルの森いのちのケアラウンジ」を開設しました。
🌲 ハウルの森 いのちのケアラウンジ
― ペットの“いのち”と穏やかに向き合うウェルネスケア施設 ―

「怖がりの子でも安心できる場所がいい」
「手術後のケアを、優しく確実に行ってほしい」
そんな飼い主さんの声から生まれたのが、
リハビリ専門動物病院 “ハウルの森いのちのケアラウンジ” です。
🩺 佐野院長の専門性 × 優しいケア
院長として監修を務めるのは、
帯広畜産大学で長く教育・研究に携わり、
整形外科やリハビリに精通した 佐野忠士(さの ただし)先生。
医学的根拠に基づいた評価と、愛犬・愛猫への深い配慮を両立したケアが受けられます。
まずは初診で診察を受けていただき、その結果でオーダーメイドのリハビリプログラムを決定します。
その後は約2週間ごとにリハビリプログラムを行っていただき、状態の向上と持続を目指します。
💧 最新式の水中トレッドミルを使用
「今日は少し怖がっているね」「もう少し深い水でもいけそう」
そんな小さな変化も見逃さず、その日の状態に最適化した運動を行います。
🌈 近赤外線・筋膜リリース・温熱ケアなど豊富なメニュー
水中トレッドミル以外にも、
- 近赤外線治療
- 筋膜リリース
- 温熱ケア
- バランスディスク
- 関節ストレッチ
など、その日の状態に合わせた“オーダーメイドのケア”が可能。
🐾 怖がりさんでも安心
まずは空間に慣れるところからスタートし、
その子のペースを最優先に進めるやさしいスタイルです。
🏡 飼い主さんがリラックスできる空間
病院特有の緊張感を取り払い、
木の温もりに包まれた落ち着くラウンジでゆったり過ごせます。
🐾 まとめ
水中トレッドミルは、
- 科学的根拠がしっかりある
- 安全でやさしい
- 幅広い症例に適応
- 代替・補完療法と併用するとさらに効果的
という、非常に優れたリハビリ方法です。
体験できる施設はまだそれほど多くありませんが、
これからますます必要とされ普及するであろうペットのリハビリ方法です。
ヘルシーアニマルズ直営の「ハウルの森いのちのケアラウンジ」は、
医学的アプローチと、犬にも飼い主さんにも寄り添う優しいケアを両立した施設です。
愛犬の歩き方が気になる方、術後のリハビリを安心して任せたい方、
シニア期をもっと元気に過ごしてほしい方は、ぜひ一度ご相談のうえ、
水中トレッドミルをご体験ください。
